銀行の融資担当時代に覚えた「社長の見方」は株式投資にも使えるか


決算説明会で社長の話に引き込まれて、その日のうちに買い注文を入れた。
半年後、株価は買値の6割になっていた。
個人投資家を始めたばかりのころ、私が実際にやった失敗です。

はじめまして、槙野慎二です。
地方銀行で法人融資を12年担当し、いまは会計事務所で事務の仕事をしながら、グロース市場の小型株を中心に投資をしています。

融資の仕事では、中小企業の社長と何百回も向き合ってきました。
決算書を読む力より、社長を見る目のほうが鍛えられた12年だったと思っています。

それなのに、株では社長の話にあっさり乗ってしまった。
融資の現場で覚えた見方は、株式投資にどこまで持ち込めるのか。
この記事では、その答えを自分の経験と公開資料をもとに整理します。

先に結論を書いておくと、半分はそのまま使えて、残りの半分は使うとかえって判断を誤ります。

融資の現場で社長のどこを見ていたか

私が融資を担当していたのは、金融庁の「金融検査マニュアル」が審査の物差しだった時代です。
このマニュアルは2019年12月に廃止され、いまは各銀行がもう少し自由に融資先を評価する仕組みに変わっています。

ただ、社長を見るという点は、マニュアルがなくなっても変わっていません。
金融庁が廃止と同時に公表した検査マニュアル廃止後の融資に関する検査・監督の考え方と進め方でも、中小企業への貸出は財務状況だけでなく、「代表者等の役員に対する報酬の支払状況、代表者等の収入状況や資産内容」まで含めて判断すると書かれています。

面談で確かめていた5つのこと

決算書の数字は、すでに終わった期の結果です。
これから貸すお金が返ってくるかは、結局その会社を動かしている人で決まります。

面談で私が見ていたのは、だいたい次のようなことでした。

  • 数字の増減を、税理士に頼らず自分の言葉で説明できるか
  • 悪い数字を、こちらが聞く前に自分から話すか
  • 会社のお金と社長個人のお金が分かれているか
  • 社長が倒れたら、誰が会社を回すのか決まっているか
  • 社長室や車に、売上の規模に合わないお金をかけていないか

なかでも、悪い数字を先に話すかどうかは、当たる確率が高い見方でした。
赤字の理由をこちらから聞くまで黙っている社長は、次の期も何かを隠していることが多かったのです。

「会社の財布」と「社長の財布」

3つ目の「お金が分かれているか」には、銀行業界共通のルールがあります。
日本商工会議所と全国銀行協会が事務局を務める研究会がまとめた経営者保証に関するガイドラインです。

このガイドラインでは、会社と経営者の間のお金のやりとりとして「役員報酬・賞与、配当、オーナーへの貸付等」を挙げ、社会通念上適切な範囲に収める体制を求めています。
融資担当は、役員報酬が会社の稼ぎに見合っているか、会社から社長への貸付金が膨らんでいないかを、決算書の勘定科目から毎期確かめていました。

貸す側と株主では、見たいものが逆になる

銀行に戻ってくるのは、貸したお金と決まった利息だけです。
会社がどれだけ大きく伸びても、銀行の取り分は増えません。

株主は逆で、損は出資した金額までですが、会社が伸びれば利益に上限はありません。
同じ社長を見ていても、銀行は「この人は失敗しないか」を見て、株主は「この人はどこまで伸ばせるか」を見ているわけです。

見る点融資での見方株式投資での見方株に使えるか
数字の説明力返済計画を信じてよいかの判断材料業績予想を信じてよいかの判断材料使える
悪い話を先に言うか隠しごとがないかの確認開示姿勢の確認使える
会社と個人のお金の分離回収できなくなるリスクの確認少数株主が損をしないかの確認使える
後継者・右腕の有無社長が倒れたときの返済リスク社長に頼りきった経営のリスク使える
身の丈に合った経営か背伸びは減点先行投資は加点になることもある使いにくい
借入への姿勢慎重な社長ほど安心慎重すぎると成長を逃す使いにくい

そのまま使えたもの

表の上4つは、株を選ぶときにも役立っています。
特に「悪い話を先に言うか」は、決算短信や決算説明資料の書き方を見ればある程度分かります。

減益の期に、原因をきちんと書いている会社がある一方、「外部環境の変化により」の一文で済ませる会社もあります。
融資の面談で黙っていた社長と同じで、後者は次の期も同じことを繰り返しがちでした。

使うとかえって判断を誤ったもの

失敗したのは、表の下2つです。
赤字を出しながら出店を続ける会社を、私は融資担当のくせで「無理をしている」と判断し、何度も見送ってきました。

そのうちのいくつかは、数年後に株価が何倍にもなりました。
銀行員としては正しい判断でも、株主としては取り逃がしだったわけです。

いまは、先行投資の赤字を見たら減点する前に、その投資がいつ回収される計画になっているのかを確かめるようにしています。
計画を数字で示せていれば、慎重すぎる見方はいったん脇に置きます。

上場企業なら、社長の情報は書類でたどれる

融資の現場では、社長に会って話を聞けました。
個人投資家は社長に会えませんが、上場企業なら代わりに読める書類があります。

有価証券報告書の中で、私が社長について必ず読むのは次の項目です。

  • 役員の状況にある社長の略歴と所有株式数
  • 大株主の状況に、社長本人や資産管理会社が並んでいるか
  • 事業等のリスクに「特定人物への依存」が書かれていないか

所有株式数は、社長がどれだけ自分のお金を会社に賭けているかの目安になります。
資産管理会社の名義で持っている場合は、役員の状況の注記に合算した数字が載っていることがあります。

グロース市場では、この確認を自分でやる意味がさらに大きくなります。
東京証券取引所のコーポレートガバナンス・コードのページによると、プライム市場とスタンダード市場の会社はコードの全原則について、グロース市場の会社は基本原則についてのみ、実施しない場合の理由説明を求められています。

社長の後継者計画のような細かい項目は、グロース市場の会社には説明が求められていません。
社長を見る作業は、投資家の側に残されているということです。

和心の森智宏社長を融資担当の目で見てみる

具体例があったほうが分かりやすいので、東証グロース市場に上場している和心(証券コード9271)を取り上げます。
かんざし屋wargoや和傘の北斎グラフィックなど、和雑貨の店を観光地に出している会社です。

社長の経歴をざっとつかみたいときは、森智宏さんの経歴を年表で整理したページが便利でした。
1997年にアクセサリーブランドを立ち上げ、2003年に会社を設立し、2018年に東証マザーズに上場するまでの流れが1枚で見られます。

ここからは、有価証券報告書と適時開示を読みながら、融資の面談で見ていた点に当てはめていきます。
なお、この銘柄を勧めるための記事ではありません。

18歳で創業し、いまも大株主

有価証券報告書の役員の状況によると、森さんは1978年12月生まれで、1997年6月に個人事業として創業しています。
18歳で始めた商売を、そのまま上場企業まで育てた創業社長です。

大株主の状況(2025年12月31日現在)では、森さん個人が25.23%、森さんの資産管理会社である株式会社フォレストが15.46%で、合わせて4割ほどを持っていました。
2026年6月の開示では、新株予約権の行使で株式数が増えたため、資産管理会社などと合わせた議決権比率は35.97%になっています。

コロナ禍で債務超過、そこからの戻り方

融資担当として一番見たくなるのは、会社が苦しくなったときの動き方です。
和心の場合、2020年に新型コロナで観光客が消え、2020年1月に90あった店舗を12月には43まで減らしました。

2020年12月期は売上高が約12.9億円、営業損失が約10億円で、期末には連結で約1億円の債務超過になっています。
2021年7月には、代表取締役の月額報酬を30%減らすと開示しました。

社長が自分の報酬から削るかどうかは、融資の現場でもよく見ていた点です。
社員の給料より先に役員報酬に手をつける会社は、立て直しの話に説得力がありました。

その後、2023年6月の第三者割当増資で債務超過を解消し、2024年2月には「継続企業の前提に関する注記」の記載がなくなりました。
2025年12月期の決算短信では、売上高が約27.8億円、自己資本比率が66.4%まで戻っています。

失敗の理由を自分に置けるか

数字よりも印象に残ったのは、会社の投資家向けページにある森さんのメッセージです。
コロナ禍を振り返り、本当の敗因として「上場後のおごり」と「強すぎる成長至上主義」を挙げています。

一つ目には「特に自分ですが。」と書き添えられていました。
業績が落ちたときに、景気や感染症ではなく自分を原因に挙げる社長は、融資の面談でもあまり多くありませんでした。

有価証券報告書の事業等のリスクには「特定人物への依存」として森さんの名前が書かれ、創業メンバーの専務などに権限を移していく取り組みも記されています。
社長が倒れたら誰が回すのかという、融資時代の5つ目の問いへの答えを、会社のほうから書いているわけです。

社長を見るだけでは足りない

ここまで読むと、社長さえ見ていれば銘柄選びはうまくいくように思えるかもしれません。
私自身、そう考えていた時期がありました。

経済産業研究所が2026年7月に公表した創業者CEOとIPO後の成果に関する研究では、新興市場に上場した会社で創業者が社長を続けた場合、従業員数や売上高の伸びにはプラスの効果が見られました。
ただ、株式市場での評価や総資産利益率の変化には、プラスの効果は見られなかったそうです。

創業社長は会社を大きくするのには向いていても、それがそのまま株主の利益になるとは限らない、ということです。
社長を見る目は、銘柄を絞り込む道具にはなっても、それだけで買う理由にはなりません。

社長の話がどれだけ魅力的でも、数字が裏切ることはあります。
東証グロース市場に上場していたオルツは、東京証券取引所が2025年7月に上場廃止を決めました。
東証の公表によると、第三者委員会の報告書で2021年12月期から2024年12月期までの売上高の大半が過大計上で、経営幹部も関わっていたことが明らかになったそうです。

私がいま心がけているのは、社長の言葉を読んだら、必ず同じ期の数字と並べてみることです。

  • 「出店を加速する」と言った翌期に、本当に店舗数が増えているか
  • 「黒字化する」と言った期に、営業利益が出ているか
  • 説明資料の目標と、実際の決算の差を社長自身がどう説明しているか

言葉と数字がそろっている社長は信じてよい。
そろっていない社長は、どれだけ話がうまくても一歩引いて見る。
融資の現場で何度も確かめたこの順番は、株でもそのまま通用しています。

まとめ

銀行の融資担当時代に覚えた社長の見方は、半分はそのまま株式投資に使えます。
数字を自分の言葉で説明できるか、悪い話を先に出すか、会社と個人のお金を分けているか、社長が倒れても回る体制があるか。
この4つは、有価証券報告書や決算資料を読めば、個人投資家でもかなりの部分まで確かめられます。

残りの半分、身の丈を重んじる見方や借入を嫌う見方は、成長株を選ぶときにはブレーキになりすぎます。
貸す側と株主では、同じ社長を見ても期待するものが逆だからです。

社長を見る目は、銘柄を選ぶ最初のふるいとして使うのがちょうどいいと思っています。
最後に決めるのは、社長の言葉と数字が合っているかどうか。
気になる会社があったら、まず社長の略歴と大株主の欄から読んでみてください。